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2011年12月 アーカイブ

目を離してはいけません

海外旅行での掟。


イタリアでは、自分の持ち物から決して目を離してはいけません。


たとえ大きなかばんでも簡単に持てないだろうとか、まさか、とんでもない、考えられない、ウソ、などと考えてはいけません。


イタリアの国境を越えると、十トン車もきれいに消えることがあります、はい。


しかしこのとき、彼らの座った席からは車が見えなかった。


いや車の見える席がなかったと言った方が正しいでしょう。


たしかに彼らは、いかに危ない旅かということを充分に承知していたからこそ、長旅もこうして無事に乗り切ることができたのだ。


それにちょっとの間だよ、だいじょうぶだよ、物は車だもんな、と、結果としては、小一時間ばかり、自分の持ち物から全員が目を離した。


そして降りてきた彼らの目に、明るく輝いたイタリアの太陽が、車のいない空間をむなしく照らしていました。


車と機具類はそれでも保険が出た。


しかし惜しんでもあまりあるものは、取材したフィルムだったといいます。


それに加えて、旅の問に買い集めた私物の土産類には当然のことながら、保険はかかっていなかった。


長い説明になってしまったが、私はこの事件を思いながら、今私の目から完全に見えなくなっている私のかばんのことを考えた。


そして、あせった。


しかし廊下の連中はのんびりとしか見えないスピードで、足もとを見つめながら、一歩ずつ前へ進んでいます。


この間、私にはどれほどの距離そして時間に感じたろう。

北イタリアの真夜中

全身にじわーっと、一月の最も寒い時期、そして北イタリアの真夜中、私は汗をかきつづけた。


そして降り口への段を降りて、もうそのときは半分気が抜けていました。


妻はまだしばらく時間のかかる所にいる。


私の靴がミラノの地面についた。


目の前にはやはりあの男はいない。


そのとき私のうしろから降りた人には、きっと私の肩が目に見えてがっくりと落ちていたことでしょう。


押されて私は前へ出た。


しばらくして妻も押されて降りてきた。


やはり不安そうな顔をしてその辺を見回して。


仕方なく二人して、とぼとぼと歩き出した。


汽車を降りた人たちが進む方向へ、つまり出口の方へ。


こういう状況の中では、どうも人間の頭というものは、空洞になるものらしい。


自分の頭に風が吹き通るような、空虚感だった。


その空うな頭で何気なく私の傍らを歩いている人を見た。


手押車を押しながら、ぴったり私について。


見れば車の上には見覚えのある私のかばんが、スキーが、ザックが、ある。


おいでおいでのあの男があたりまえのようにして歩いています。


この男がとたんに神々しく見えてきた。


見ると、手押車の向こう側に中年の女性が、やはり車によりそうようにして歩いています。


この女性、落ちついた頭でよく見ると、着こなし、好みはなかなかのものです。


見れば私のかばんに混って、彼女の物らしいかばんもいくつかのっています。


つまり、もうひとり客をさがして、そのかばんをのせるために彼は少し離れた所にいたのでしょう。


それで私の目には入らなかったのだ。


海外に行くなら、こういった覚悟も必要かもしれないが、どうやら早とちりだったらしい。

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