目を離してはいけません
海外旅行での掟。
イタリアでは、自分の持ち物から決して目を離してはいけません。
たとえ大きなかばんでも簡単に持てないだろうとか、まさか、とんでもない、考えられない、ウソ、などと考えてはいけません。
イタリアの国境を越えると、十トン車もきれいに消えることがあります、はい。
しかしこのとき、彼らの座った席からは車が見えなかった。
いや車の見える席がなかったと言った方が正しいでしょう。
たしかに彼らは、いかに危ない旅かということを充分に承知していたからこそ、長旅もこうして無事に乗り切ることができたのだ。
それにちょっとの間だよ、だいじょうぶだよ、物は車だもんな、と、結果としては、小一時間ばかり、自分の持ち物から全員が目を離した。
そして降りてきた彼らの目に、明るく輝いたイタリアの太陽が、車のいない空間をむなしく照らしていました。
車と機具類はそれでも保険が出た。
しかし惜しんでもあまりあるものは、取材したフィルムだったといいます。
それに加えて、旅の問に買い集めた私物の土産類には当然のことながら、保険はかかっていなかった。
長い説明になってしまったが、私はこの事件を思いながら、今私の目から完全に見えなくなっている私のかばんのことを考えた。
そして、あせった。
しかし廊下の連中はのんびりとしか見えないスピードで、足もとを見つめながら、一歩ずつ前へ進んでいます。
この間、私にはどれほどの距離そして時間に感じたろう。