北イタリアの真夜中
全身にじわーっと、一月の最も寒い時期、そして北イタリアの真夜中、私は汗をかきつづけた。
そして降り口への段を降りて、もうそのときは半分気が抜けていました。
妻はまだしばらく時間のかかる所にいる。
私の靴がミラノの地面についた。
目の前にはやはりあの男はいない。
そのとき私のうしろから降りた人には、きっと私の肩が目に見えてがっくりと落ちていたことでしょう。
押されて私は前へ出た。
しばらくして妻も押されて降りてきた。
やはり不安そうな顔をしてその辺を見回して。
仕方なく二人して、とぼとぼと歩き出した。
汽車を降りた人たちが進む方向へ、つまり出口の方へ。
こういう状況の中では、どうも人間の頭というものは、空洞になるものらしい。
自分の頭に風が吹き通るような、空虚感だった。
その空うな頭で何気なく私の傍らを歩いている人を見た。
手押車を押しながら、ぴったり私について。
見れば車の上には見覚えのある私のかばんが、スキーが、ザックが、ある。
おいでおいでのあの男があたりまえのようにして歩いています。
この男がとたんに神々しく見えてきた。
見ると、手押車の向こう側に中年の女性が、やはり車によりそうようにして歩いています。
この女性、落ちついた頭でよく見ると、着こなし、好みはなかなかのものです。
見れば私のかばんに混って、彼女の物らしいかばんもいくつかのっています。
つまり、もうひとり客をさがして、そのかばんをのせるために彼は少し離れた所にいたのでしょう。
それで私の目には入らなかったのだ。
海外に行くなら、こういった覚悟も必要かもしれないが、どうやら早とちりだったらしい。